新版 / 第一章

第三話 俺史上最も得体の知れない存在

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ガタガタガタ!ガン!ゴン!

 

騒々しい音がしばらく鳴り響いた。そのあと、

 

カタンコトン、カタンコトン、、、

 

奥の階段の方から足音が聞こえてきた。

 

音のする方を見れば、下駄を履いた女性の足。

それから徐々に全身が見えた。

 

赤い羽織りをたゆたわせ、

電灯の光でも綺麗に輝く銀色の髪、

凛とした表情で際立つえらく整った顔立ち、

それぞれの特徴が絶妙なバランスをとっている。だがそれすら前提に思えてしまう。

 

なぜなら、天然石のように色が揺れる瞳が、神々しいほど綺麗に見え、俺を惹きつけたからだ。その底の見えない奥へと、吸い込まれそうになった、ところ、で

 

「遅いなぁ!ねぇねぇ〜?なにしてたんだよ!え?待ってたんだよっ!ずっと!ずっと、、、ほんとに、、、ようやく会えた。やっとです!私は、君に、貴方に、会いたかった」

 

さっきの大声と同じ声が聞こえて、現実に、戻された。しかも怖い。なんだろう。口調?いや内容もか。なんだろう。言語化できないけどなんか、、、なんか、、、もうわかんない。

 

カッ、コッ、カッ、コッ、、、

 

階段を降り切ってから歩く速さが上がってる。向かう方向は真っ直ぐに俺の方。止まる気配がない。だんだんと近づいてきた。

 

混乱がピークに達した結果、脳がフル回転して一つだけ理解できた。

俺は、今、話しかけられている。じゃあ?

 

- 俺もなにか言うべきか?

 

それは混沌への帰路だった。

 

さっきなんて言ってた?めちゃくちゃ怒ってた、そんでえー、、、っと、待ってた、か?それはわかる。俺が悪い。でも会いたかったもあった。なに?どういうこ

 

「会えて良かった」

 

明瞭で澄んだ音が優しく切なげに聞こえた。

 

「、、、本当に、、、こうして話せているってことは、、そうだよね!うん!近くで見ても間違いないのだ。ああ!!」

 

目の前でじろじろ見ながらアレコレ話すのはやめて欲しい、、、

 

「ん?あぁ、、、あ!“これ”が言ってたやつか。まぁいいですかね。それよりも!」

 

なんだろう、、、言葉が左から右にずっと流れてる、、、とりあえず振り返ってみよう。罵声だった声が気づいたら柔らかくなって、内容が頭に入ってきたところ、無言、急接近、目の前で立ち止まり、ずっとひとりでよくわからないことを話している。

 

- なんなんだろう、この生き物。

 

「人間だよ?」

「え?」

 

は?え?言葉に出てた?やばい。なに話そう。じゃない。

 

- なにから話せば、、、

 

「まず遅いですね。はい。なにしてた?」

「えっと、、、すいません、、、」

 

- そういえばそうだったわ、、、

- 俺が悪いな。

 

「わかればよろしい!!」

「え?はい」

 

- なんなんだ、、、こいつ、、、?

 

「わたしはナギっていうんだ。“人間”ですよ」

「は?」

 

- 待て。

 

- 俺は今

- 言葉を

- っていうか声も音も

- 喉から出してなかったはずだ。

- たぶん。

 

「あ、、、聞いてるぞ!鬼海の奴から聞きました」

「はい」

「ってか“それ”だよね?鬱陶しいやつがついてるな。あぁしかもめんどくさ、、、だるいな、、、ちっ!どうっしよっかーなー、、、」

 

- なんか、、、なんか!

- もう、、、あれだ、、、

 

通じ始めてた話が、また遠ざかっていった、、、

なんか違和感もあるし、、、

あとこの人にもめんどくさい言われた、、、

俺のことじゃないのはわかるけど。

わかるけども、顔の良い女に言われるとメンタルに効くものがある、、、

 

「、、、まぁいいか。そもそも契約はする予定だったしねぇ、、、むしろ都合がいい?それやん!」

 

あ、また自己完結してる。既視感あるんだよね。しかも最近、、、

 

- あぁ、あとあれだ、、、

 

口調がコロコロ変わるから、言葉のリズムが気持ち悪い。そのせいかわからないけど内容が入ってこない。

 

- それに、あれ、、、

- くそ、伝染ってきた、、、

- これなんて言うんだっけ、、、

 

「あー、、、こそあど言葉?」

「それだわ!」

「わかるわー言葉が出ないよね」/「は?」

 

- もしかして思考に返事してる?

 

「ん?」

 

なんか笑顔で首をかしげている、、、

 

- どういう意思表示なの、それ?

 

コツンッ!

 

「コラ!何度言えばわかる!?会話は言葉を待てっていつも言ってるだろう」

「いたっ、、、アキー!!だってさぁ!」

「まず!ちゃんと!説明しなさい!」

「見つけた」

「は、、、?」

「アタシが‘前に言ってた人’」

「え?」

「ようやく会えたんだ!鬼海のとこにいた!」

「そう、、、なのか。よかった、、、な」

 

*

*

*

 

- やっと一息つける。

 

俺は、カウンターの席の離れたところで二人を見守っていた。

 

改めて説明するなら救いの女神(男性)が現れたって感じだ。店、、、長、、、違うな、‘マスター’って印象。アキって呼ばれてたけど、マスターでいいかな。

 

マスターのおかげで、ようやく俺に纏わりついてた謎の生物が離れた。しかも、ちゃんと制止してくれてる。でも最初、アレの頭を軽く叩いてた時の顔は怖かったな、、、

 

内心ちょっとスッキリしたけど。でもあの光景は、女性が殴られたってよりも悪ガキが怒られたように見えた。明らかに痛がってるフリをしてたし、、、

 

ちらりと二人の様子を見る。

 

- すげぇ、、、会話が成立してる、、、

- え?じゃあこれ、俺が悪い?、、、のか?

 

- あれ?

- 今度は俺を置いて話が進んで行ってない?

 

- あ!そういえば!

- さっき俺の思考に返事してたよな?

- この怪物

 

「だ!か!ら!人間だって!何回言えばわかるの!?」

「うわっ!!」

 

ゴッ。

 

「コラッ!!」「痛いッッ!!」

 

俺が驚いた直後、マスターが目の前の女の頭にゲンコツをいれた。

 

確信した。

- やっぱり思考に返事してるな。

 

「あの、、、」

 

マスターが話しかけてきた。あ、この人なら会話が通じるか?

 

「はい」

「大変申し訳ございません。これに関しては、‘事故に遭ったもの’とでも思ってくだされば助かります。お詫びといってはなんですが、何かサービスしますよ。こちらメニューになります」

 

- わぁ、、、

- めちゃくちゃ手慣れてる、、、

- いつもこうなんだ、、、

 

「あ、、、じゃあカフェオレいいですか?」

「アッキーウチもー!」

「おまえは黙ってろ」

 

- こわ、、、

- 声低くなってるから余計に、、、

 

「ねぇ〜酷いと思いませんか?」

 

- お前の口調の変化の方が酷いわ。

 

「それよく言われんですよねぇ」

 

- あの、、、これもやめてくれません?

 

「いやぁ〜ねぇ?治らない癖ってあるじゃん?

だぁってさぁ、、、」

 

また一人で喋り出した、、、

 

でも少し会話ができるようにはなったな。いや、声に出してない時点で会話じゃねぇわ。

 

俺もおかしくなってきたんかな?

異常に慣れすぎた弊害か、、、もう考えるのが嫌になってきた、、、

 

- 帰りたい、、、

- 来るんじゃなかった、、、

 

「死んでもいいんだ?」

「、、、、、、は?」

 

デジャヴ。

 

そうだ。

 

- 似たようなこと先生にも言われた、、、

 

ただ、

 

それ以上に

 

なにか、、、

 

「お主わかっておるな?」

「なにがだよ?」

「我に、助けてもらいに、来たん、でしょう?」

 

そうだ。

 

やけに目を引く見た目や転調する口調のせいで気づかなかった。

 

神社に行ったときと同じ感覚がずっとしてる。

 

その源泉は

 

この、、、女?

 

違う、、、

 

- コイツは、なんだ?

 

「だからだからだから!人間だって言ってんじゃない!?」

 

気圧された。

声が大きかったからじゃない。

なんていうか、、、

自分の根幹のような部分に強い衝撃が加わったような、、、

 

「やば!、、、ガッッアァ!うぅ、、、くそっっ!」

「コラッ!気持ちがわかるとは言わないが、それでも抑えなさい!」

「うるさい!!」

「自分を大事にしろと言っているんだ!!」

 

なんか急に痛がってんだけど、どうしたんだろう、、、マスターも怒ってるというより心配してる、、、?

 

「もういい!!話が進まんけぇ!!そうだなぁ、、、地獄!地獄ならば多少はまぬがれるし、、、おい!千葉!」

「あぁ?」

「”取り引き“です。面白いものを見せてやるから、吾輩がする話を信じろっ!!」

 

- 意味わかんねぇ。

 

「おまんが今までしたことはないであろう‘体験’を、僕が、させて、あげる、って言ってるんだ」

 

鼻先が触れるくらいの距離まで近づいてきてそう言われた。恐怖があった。それと同量の興味もあった。

 

目と目が合う。

 

俺を見つめる瞳は、何度見ても綺麗な煌めきを放ち、奥底には無数の未知が広がっているように感じ、、、

 

俺の好奇心は、畏れを、上回った。

 

「見てみたいか?」

 

- 見てみたい

 

「ならば了承するが良い」

 

「わかった」

 

今度こそ思考がそのまま言葉に出てしまった。

 

そして、

 

目の前がブラックアウトしていく中、マスターの声がうっすら聞こえた。

 

「ナギ!やめなさい!」

 

 

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