ガタガタガタ!ガン!ゴン!
騒々しい音がしばらく鳴り響いた。そのあと、
カタンコトン、カタンコトン、、、
奥の階段の方から足音が聞こえてきた。
音のする方を見れば、下駄を履いた女性の足。
それから徐々に全身が見えた。
赤い羽織りをたゆたわせ、
電灯の光でも綺麗に輝く銀色の髪、
凛とした表情で際立つえらく整った顔立ち、
それぞれの特徴が絶妙なバランスをとっている。だがそれすら前提に思えてしまう。
なぜなら、天然石のように色が揺れる瞳が、神々しいほど綺麗に見え、俺を惹きつけたからだ。その底の見えない奥へと、吸い込まれそうになった、ところ、で
「遅いなぁ!ねぇねぇ〜?なにしてたんだよ!え?待ってたんだよっ!ずっと!ずっと、、、ほんとに、、、ようやく会えた。やっとです!私は、君に、貴方に、会いたかった」
さっきの大声と同じ声が聞こえて、現実に、戻された。しかも怖い。なんだろう。口調?いや内容もか。なんだろう。言語化できないけどなんか、、、なんか、、、もうわかんない。
カッ、コッ、カッ、コッ、、、
階段を降り切ってから歩く速さが上がってる。向かう方向は真っ直ぐに俺の方。止まる気配がない。だんだんと近づいてきた。
混乱がピークに達した結果、脳がフル回転して一つだけ理解できた。
俺は、今、話しかけられている。じゃあ?
- 俺もなにか言うべきか?
それは混沌への帰路だった。
さっきなんて言ってた?めちゃくちゃ怒ってた、そんでえー、、、っと、待ってた、か?それはわかる。俺が悪い。でも会いたかったもあった。なに?どういうこ
「会えて良かった」
明瞭で澄んだ音が優しく切なげに聞こえた。
「、、、本当に、、、こうして話せているってことは、、そうだよね!うん!近くで見ても間違いないのだ。ああ!!」
目の前でじろじろ見ながらアレコレ話すのはやめて欲しい、、、
「ん?あぁ、、、あ!“これ”が言ってたやつか。まぁいいですかね。それよりも!」
なんだろう、、、言葉が左から右にずっと流れてる、、、とりあえず振り返ってみよう。罵声だった声が気づいたら柔らかくなって、内容が頭に入ってきたところ、無言、急接近、目の前で立ち止まり、ずっとひとりでよくわからないことを話している。
- なんなんだろう、この生き物。
「人間だよ?」
「え?」
は?え?言葉に出てた?やばい。なに話そう。じゃない。
- なにから話せば、、、
「まず遅いですね。はい。なにしてた?」
「えっと、、、すいません、、、」
- そういえばそうだったわ、、、
- 俺が悪いな。
「わかればよろしい!!」
「え?はい」
- なんなんだ、、、こいつ、、、?
「わたしはナギっていうんだ。“人間”ですよ」
「は?」
- 待て。
- 俺は今
- 言葉を
- っていうか声も音も
- 喉から出してなかったはずだ。
- たぶん。
「あ、、、聞いてるぞ!鬼海の奴から聞きました」
「はい」
「ってか“それ”だよね?鬱陶しいやつがついてるな。あぁしかもめんどくさ、、、だるいな、、、ちっ!どうっしよっかーなー、、、」
- なんか、、、なんか!
- もう、、、あれだ、、、
通じ始めてた話が、また遠ざかっていった、、、
なんか違和感もあるし、、、
あとこの人にもめんどくさい言われた、、、
俺のことじゃないのはわかるけど。
わかるけども、顔の良い女に言われるとメンタルに効くものがある、、、
「、、、まぁいいか。そもそも契約はする予定だったしねぇ、、、むしろ都合がいい?それやん!」
あ、また自己完結してる。既視感あるんだよね。しかも最近、、、
- あぁ、あとあれだ、、、
口調がコロコロ変わるから、言葉のリズムが気持ち悪い。そのせいかわからないけど内容が入ってこない。
- それに、あれ、、、
- くそ、伝染ってきた、、、
- これなんて言うんだっけ、、、
「あー、、、こそあど言葉?」
「それだわ!」
「わかるわー言葉が出ないよね」/「は?」
- もしかして思考に返事してる?
「ん?」
なんか笑顔で首をかしげている、、、
- どういう意思表示なの、それ?
コツンッ!
「コラ!何度言えばわかる!?会話は言葉を待てっていつも言ってるだろう」
「いたっ、、、アキー!!だってさぁ!」
「まず!ちゃんと!説明しなさい!」
「見つけた」
「は、、、?」
「アタシが‘前に言ってた人’」
「え?」
「ようやく会えたんだ!鬼海のとこにいた!」
「そう、、、なのか。よかった、、、な」
*
*
*
- やっと一息つける。
俺は、カウンターの席の離れたところで二人を見守っていた。
改めて説明するなら救いの女神(男性)が現れたって感じだ。店、、、長、、、違うな、‘マスター’って印象。アキって呼ばれてたけど、マスターでいいかな。
マスターのおかげで、ようやく俺に纏わりついてた謎の生物が離れた。しかも、ちゃんと制止してくれてる。でも最初、アレの頭を軽く叩いてた時の顔は怖かったな、、、
内心ちょっとスッキリしたけど。でもあの光景は、女性が殴られたってよりも悪ガキが怒られたように見えた。明らかに痛がってるフリをしてたし、、、
ちらりと二人の様子を見る。
- すげぇ、、、会話が成立してる、、、
- え?じゃあこれ、俺が悪い?、、、のか?
- あれ?
- 今度は俺を置いて話が進んで行ってない?
- あ!そういえば!
- さっき俺の思考に返事してたよな?
- この怪物
「だ!か!ら!人間だって!何回言えばわかるの!?」
「うわっ!!」
ゴッ。
「コラッ!!」「痛いッッ!!」
俺が驚いた直後、マスターが目の前の女の頭にゲンコツをいれた。
確信した。
- やっぱり思考に返事してるな。
「あの、、、」
マスターが話しかけてきた。あ、この人なら会話が通じるか?
「はい」
「大変申し訳ございません。これに関しては、‘事故に遭ったもの’とでも思ってくだされば助かります。お詫びといってはなんですが、何かサービスしますよ。こちらメニューになります」
- わぁ、、、
- めちゃくちゃ手慣れてる、、、
- いつもこうなんだ、、、
「あ、、、じゃあカフェオレいいですか?」
「アッキーウチもー!」
「おまえは黙ってろ」
- こわ、、、
- 声低くなってるから余計に、、、
「ねぇ〜酷いと思いませんか?」
- お前の口調の変化の方が酷いわ。
「それよく言われんですよねぇ」
- あの、、、これもやめてくれません?
「いやぁ〜ねぇ?治らない癖ってあるじゃん?
だぁってさぁ、、、」
また一人で喋り出した、、、
でも少し会話ができるようにはなったな。いや、声に出してない時点で会話じゃねぇわ。
俺もおかしくなってきたんかな?
異常に慣れすぎた弊害か、、、もう考えるのが嫌になってきた、、、
- 帰りたい、、、
- 来るんじゃなかった、、、
「死んでもいいんだ?」
「、、、、、、は?」
デジャヴ。
そうだ。
- 似たようなこと先生にも言われた、、、
ただ、
それ以上に
なにか、、、
「お主わかっておるな?」
「なにがだよ?」
「我に、助けてもらいに、来たん、でしょう?」
そうだ。
やけに目を引く見た目や転調する口調のせいで気づかなかった。
神社に行ったときと同じ感覚がずっとしてる。
その源泉は
この、、、女?
違う、、、
- コイツは、なんだ?
「だからだからだから!人間だって言ってんじゃない!?」
気圧された。
声が大きかったからじゃない。
なんていうか、、、
自分の根幹のような部分に強い衝撃が加わったような、、、
「やば!、、、ガッッアァ!うぅ、、、くそっっ!」
「コラッ!気持ちがわかるとは言わないが、それでも抑えなさい!」
「うるさい!!」
「自分を大事にしろと言っているんだ!!」
なんか急に痛がってんだけど、どうしたんだろう、、、マスターも怒ってるというより心配してる、、、?
「もういい!!話が進まんけぇ!!そうだなぁ、、、地獄!地獄ならば多少はまぬがれるし、、、おい!千葉!」
「あぁ?」
「”取り引き“です。面白いものを見せてやるから、吾輩がする話を信じろっ!!」
- 意味わかんねぇ。
「おまんが今までしたことはないであろう‘体験’を、僕が、させて、あげる、って言ってるんだ」
鼻先が触れるくらいの距離まで近づいてきてそう言われた。恐怖があった。それと同量の興味もあった。
目と目が合う。
俺を見つめる瞳は、何度見ても綺麗な煌めきを放ち、奥底には無数の未知が広がっているように感じ、、、
俺の好奇心は、畏れを、上回った。
「見てみたいか?」
- 見てみたい
「ならば了承するが良い」
「わかった」
今度こそ思考がそのまま言葉に出てしまった。
そして、
目の前がブラックアウトしていく中、マスターの声がうっすら聞こえた。
「ナギ!やめなさい!」
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新版第三話 俺史上最も得体の知れない存在
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