新版 / 第一章

第二話 喫茶【猫も小判も】

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あれから三日、憎たらしいことに”御守り“はしっかりと機能している。先生が得意気に微笑んでいる気がするが、その思考はぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てたい所存である。

 

初日に起こった天井を叩く”音“、それ以外だと”もう一回“だけ。

 

昨晩、タバコを吸いにベランダに出たら、見下ろした先の路上に立っていた、“黒い人影”、睨まれた、ような気がした。

 

- それくらいのことだ。

 

今までに比べれば全然マシ。でも、アイツにこの”御守りが期限付き“ってこと、地味にバレてそうな気もする。

 

「はぁぁあ」

 

この諦観は何度目になるだろうか。胡散臭いのもあるし、先生(人間じゃない疑惑あり)の言うことに従うのも癪だし、‘紹介先’で除霊してもらうのか仕事するのかも不明だし、、、

 

「行きたくねぇ、、、」

 

ってかさ、紹介先の【猫も小判も】って店、ネットで調べたら余計に混乱した。どう調べたってここ、、

 

- ただの喫茶店じゃねーか!!

 

裏の顔があるとか、そういう系?

どこのファンタジーだよ!ってツッコミ入れたい所存!

だがしかし、なまじ怪談じみたファンタジーに巻き込まれてる現状。

 

- なんも言えねぇー、、、

- まじで小説に出来そうじゃね?

 

神社もお寺も門前払い、怪しい拝み屋みたいなのも頼ったけど完全に詐欺だった。頼りになったのが精神科医で、紹介先は喫茶店。

 

- 馬鹿みたいにホラーの導入じゃん!

 

ってそういえば!あの拝み屋も“やばいの”抱えてそうだったんだよな、、、拝み屋やってる場合じゃねーだろ、、、

 

まぁ俺は、先生みたいに見えるわけじゃないけれど、なんとなく感じはするんだよねぇ。だから一時期オカルトにもハマったけれど、、、

 

- いざ自分がそうなるとなぁ、、、

 

とか言いながら、どうでもいいって思ってる自分もいる。会社に行けなくなってからずっと。違うか、不安定な道を自信を持って選べなかったあの時からずっと、か。

 

- 手遅れ一歩手前の死に損ない。だっさ。

 

子供の頃になりたくないって思ってた大人に近づいている、、、違うな。

 

- これはもう手遅れだわ。

- ウケる。

 

「はははっ、、、」

 

笑い声って音になってないものが喉から吐き出された。口から出すには苦すぎる。煙で口直しをしたい。

 

ガチャッ、ボッ

 

タバコに火をつけた。

もう賃貸とかどうでも良くなってきた。

 

- あ、でも、灰皿どうしよう。

 

しょうがない、ベランダ行くか、、、

 

ガラララァー、、、

 

「はぁ」

 

強く刺さる西陽が鬱陶しい。わかってたけど、もう夕暮れ。

 

- まだ間に合うかな。

 

営業時間は気にしないでおこう。とりあえず、この一服を終えてから、、、

 

「ふぅー、、、」

 

- 子供の頃の夢はなんだったっけ?

- 高校の初めは、公務員とか言ってたな。

- そんで絵にハマって画家。

- 何者かになりたいとかほざいてたのに、

- 結果、この様。

 

煙が橙色の光に照されて、色付いた白さを見せた。

 

また今日が終わる。

そして長く感じる夜が始まる。

 

昼夜逆転してる俺が悪いのはわかってる。

こんな生活のままじゃカビでも生えてくる?言われなくてもわかってる。

息のしづらい生き方をしてんのもわかってる。

全部全部わかってる。だから

 

- 別に死んでもいい

 

「、、、けど、殺されんも癪なんだよなぁ」

 

*

*

*

 

空は濃淡が鮮やかな青紫になっているけれど、黒い影になった街の夜景の上はまだ赤い。

 

- 陽は落ち切っていないからセーフだ。

- たぶん。

- 時計を見たら負けだと思う。

 

場所は歩いて行ける距離だったのが幸いだった。

 

ガチャッ。

 

なんとなくでいつも持ち歩いてるスケッチ用具とデジカメ、そして最近ハマってる“日本酒”が入ったリュックを背負って家を出た。

 

アイツに付き纏われてからずっと、外出する時は両耳にイヤホンをつけて音楽を鳴らして歩いてる。

 

嫌がらせみたいに異常にはっきりと聞こえてくる“足音”がいつも後ろからするから。

 

御守りがあったところで不安は簡単に消えやしない。

 

出来るだけ明るい道を選んで歩いてようやく、辿り着いたのは閑静な住宅街。そこにポツンと明かりが灯ったお店があった。

 

近づいてみれば看板までしっかりと見える。

 

喫茶【猫も小判も】

 

少し古い民家を改装した感じの小洒落た雰囲気のお店。扉には‘営業中’の文字があった。

 

- 間に合った。

 

ガチャ、ギィーーッ。カランカラン。

 

「いらっしゃいませ」

 

白髪混じりのオールバックで、スーツにエプロンをつけた壮年の男性がカウンターから柔らかい声をかけてくれた。

 

- 案外、普通

 

怪異の対処をしてくれるという情報のせいで少し身構えてた自分にとっては、取り越し苦労だったようだ。

 

「こんばんは、あのー、、、

 

カウンターの方へ向かって足を運びつつ、要件を話そうとしたその時だった。

 

「来たな!!!!」

 

上から女性のものと思える大声が響いた。

 

- やっぱり

 

 

 

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