絶望に打ちひしがれて、全てがどうでも良くなった。
それくらいに荒んでた。
実際にどうでも良くはなれない。
壊れてはいけないから責任を取らないといけないから。
びしょ濡れになっていて薄汚い
ボロボロになった醜い
内側まで腐りきった害悪のような私
と
対照的な私
が
見えた。
- あれは、ほんとうに、私か?
感じる。
- 間違いない。あの“神威”は私だ、、、
- そうか
- ここは狐道だ
未来が交わることも珍しくない
でも
未来は分岐する
だから
不確かだ
あれは不確かな未来だ
- でも、もしかしたら、きっと
- もっと
- もっとよく見なきゃ
- でも
近づいたら、、、
近づいて、道を間違えたら、道を踏み外したら
帰って来られない。
- それだけはダメ
だからその場で、見る。
神威を広げて感覚を強めろ。
それでまた神に近づいてしまってもいい。
最大限に力を使って、見通せ。
なにかしら罰則が来るかもしれないが、、、
もしかしたら気づかれるかもしれないが、、、
- どうでもいい
まず
私
だけじゃない
一緒に人間がいる
- 独り
- じゃない
人間の男がいる
二人は笑い合っている
- こいつは誰だ?
聞こえる。
楽しげな笑い声
- 私のだ
本気で怒ってない罵声
- 男のか
なにげない、他愛ないやり取り
- なんか、
- 楽しそうだな
- それに
- あの私は
- 人間に少し近い気がする
男が私をナギと呼び
私があいつを、、、
- そうか、、、
- あいつは千葉っていうのか
- 会いたい
- 会ってみたい
- 会えば、ああなれる?
- ああなりたい
- あいつが“鍵”だ
- きっとそう
- 違いない
- 欲しい
手を伸ばした
そして
足が
動きかけて、、、
止めた
- まだだ!
- 今はその時じゃない!!
- 一旦
- 一旦確認しよう!
- イナリだ!
- あいつなら、、、そうだ!
- イナリのとこに行けばいい!
- 早く!速く!!行かなきゃ!
*
*
*
イナリたちが地獄や天国を真似して作った空間。獣由来の神たちの住処。私が世界を変えた後に出来た、神界から少しだけ独立した或る空間。その中央を目指し、走る。
*
*
深い緑を駆け抜けた。
草、木、木々、林、森、、、
- 相変わらず広い
- しかもわかりづらい
- 煩わしい
普段なら落ち着くけど、今は一刻も早く確かめたい。だから、、、走る。
*
赤い鳥居が増えてきた。まばらに、そこら中にある。少し装飾が凝った鳥居。
- もうすぐだ
*
緑よりも赤が増えてきた。
そして、
見えた。
正面に巨大で絢爛な鳥居。
そして先にある華美な社みたいな屋敷。
今まであった赤い鳥居は、この屋敷を取り囲んでいる。だからその周囲も鳥居が無造作に、でも侘び寂びを保ちながら、建っている。
- 女王気取りか?
- それを言うならトカだわ
- だったらイナリは姫様ってところか
- 、、、
- だめだ
- 焦ってきてる
- イナリはそんなやつじゃない
- それにいつまで神のつもりだ?
- 私はもう神じゃない!
- 焦りすぎるな!
「ふぅーーーー」
息を整える。
ちょっと落ち着こう。だいぶ走ったから疲れた。ってあれ?そういえば!ああ!
- この鳥居のどれか使えばすぐだったや!
- ああもうなにやってんだろ、、、
- まぁ、でも、悪い気はしない!
- 思いっきり走ってスッキリした!
- うーん、
- でも、、、
- 誰かに頼めばよかった、、、、、、
- 頼めば、、、
そんな考えは頭になかったな、、、
そもそもなりふり構っていられなかったし、、、
あれ?でも、、、
結局イナリに頼ろうとしてない?
- あ
- ずっと惰性で動いてたや
- だからだ
- だから頭になかったんだ
ほんと
- ダメだなぁ、、、
- やっぱり今のままじゃだめだ!
- でも、あの未来の自分になれたら、、、
- あの男と出会えれば、、、
変われる
- って、こと、か、な?
- だといいな、、、
- そしたら私にも、、、
- 価値は産まれる、のかな?
- そのために、確認しないと
- だから、まずは、
「イナリーーーーーーー!!!!」
大声で力を込めて叫んだ。
下位の神やなりきれてない妖怪、なり損ない、そんな獣たちが慌ただしく出てきた。
イナリの側仕えら。
私のことは知ってるはずだ。
でもなんで?なんでそんなに警戒している?
前にも来たよね?撫でさせてくれたよね?
シャランッシャランッ。
鈴の音。敢えて鳴らしているな。おかげで側仕えたちが静まった。
「イナリ!!」
屋敷の玄関の前にある鳥居。その中からするっと現れた和装の女性。金色の耳と髪色に九本のしっぽ。いつ見てもふわふわだ。
側仕えのモフモフも姿勢を正す。かわいい。
- 癒される
「ナギ、、、其方に選択肢を提示してやろう。追い出されるか、洗われるか。どちらが良いか選びなんし」
タイガーアイのような瞳がキツく私を睨む。
「いや話したいことあるから、、、」
「では洗われる、でよろしいな。そう受け取った。わかったな?其方らもはよう動きんし」
パンッ!パンッ!
イナリが手を叩く。モフモフがどこからかハンカチを取り出して鼻と口を隠した。そしてジリジリと寄ってきて、飛び掛かった、私に。
「うわぁ!!!」
あとはされるがまま。風呂に連行されて洗われた。綺麗にされた。なんか、、、いろんな意味で癒された。
服もいつのまにか綺麗になってて、
- ボロ切れみたいになってたのに、、、
- これ新品?じゃないよなぁ
- わざわざ‘権能’を使ってくれたのか
- ありがたやありがたや
- じゃない!!!
「イナリ!もういい!?!?」
「よいぞ?だがまだ匂うな。あとでもう一回洗われなんし」
「え!?まじか、、、じゃない!あのね!アタシ!見たの!あの!!狐道で!人間と仲良さげに歩いてた!その私が!人間っぽかった!!完全に人間じゃなかったけど!今よりもっと!人間っぽかったの!!!だか、が!あぐ!イ“ッッたい!!あ”ぁ!あ”、あぁ、、、」
“罰則”
未来の情報を他者に開示してはならない。
私たちが、違う、私が定めたものだ。
- もう何度破ったか覚えてないや
- でも慣れない、、、
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、、、あはは」
上手く笑えない
っていうか誰かに心配されたのもいつぶりだっけ。
さっきも気遣ってくれたのかな。あれ視界がボヤける、、、
パンッ!パンッ!
銀色や銅色のモフモフたちがゆっくり近づいてきた。
「お茶でありんす。飲みなんし」
「あ”りがど、、、」
上手く言葉も出ない。
頬を温かい水が流れてる。
胸も暖かい。久々だな。この感じ。
- 優しさ、だ
- イナリ、、、
- 私、ここに来たとき、
- あんなこと思っちゃったのに、、、
- いいの?
- 私が受け取っても
- 世界を変えてしまった私が、、、
- みんなに迷惑かけてきた私が、、、
「わっちは、わちらは、ほとんど影響がないのでな。其方を疎んでおらぬ。だから安心せい。そもそも自分をそこまで責めるのはよしなんし」
- やめてよ、、、
- そんな優しい目で見ないでよ、、、
- 頭なんか撫でないで、、、ねぇ、、、もう、、、
「う”、う”ぅ、、、う”あ”ぁあああああん」
泣いた。はち切れるように泣いた。今まで抱えたドス黒いものを吐き出すように大声をだして泣いた。もう、どうでもよくなった、、、
「そちはもう少し自分を大事にしなんし。大方、ひとりで抱え込もうとしたのではないか?それで自分を痛めつけておらぬか?責任を取るとはそういう意味ではないぞ」
「ぐっ、、、ずぅっずずっ、、、う”ん、、、」
右手で抱き寄せられ、そのままイナリのひざに寝かせられた。そして金色の尻尾が私を包み込んだ。イナリの温もりが身体に染み渡る。
苦しくない。
むしろ心地いい。
だから、
寝てしまった。
*
*
*
「起きるでありんす」
「ぁ、、、あ”りがど、、、」
声がしゃがれてる、、、
「そちはまっこと難儀な存在よの。わっちのような獣風情には、自業自得なおんしの状況などわかりはせん」
「う”ぅ、、、やっぱりわからないよね、、、ごめんね迷惑かけて、、、」
無言。
何も言わない。これ以上は迷惑かけられないな。
でも、知りたい、、、知りたい、、、
「ねぇ!知ってたらでいいから!教えて!あの未来にたどり着く方法!」
「知らん」
スッパリ言われた。
「、、、、、、そっか」
どうしよう、、、
- 無理なのかなぁ、、、
- そうだよ、、、
- 変われるわけない、、、あぁ、、、
- イナリの言う通り自業自得だもん、、、
- このまま消えられたらいいのになぁ、、、
「だが可能性はある」
「どういうこと!?」
「未来なんぞわかりはせん。そちはそのまま足掻き続けるがよい。運命を信じろ。さすれば繋がることもありんす。だが、其方もわかっておろう。未来は不確実だと。だからはっきり言って無謀でありんす」
- え?どういうこと?
「えっと、、、あの、、、今ね、、、頭まわんなくて、、、」
「其方が世界を変えた今、人間は神の存在をわからんようなったな?それでも人間は祈る。そちも同じように、どうなるかわからん未来を祈れ。そして流されるまま生きればよい」
- は?
「それってなんもするなってこと?」
「それでよい。そうでなくてもよい。信じ続けるしかないということよ」
「わかんない」
- わかんないよ、、、
未来が曖昧なのはわかるけど、だからって答えまで曖昧じゃわかんないよ、、、
イナリは悪くない、、、悪くないけど、、、
- このままじゃ私、、、人間になれない、、、
「ふぅ、、、」
イナリが軽く息を吐く。そしてギュッと拳を握って、尻尾を丸めた。
「其方、もしあの人間に会うことがあれば、神だと、神だったとバレぬようにな。それが絶対じょ、う“っ、、、!!」
イナリは一声以外、声を出さず、耐えていた。
あの激痛を。
ただただ、
じっと。
じっと。
イナリをよく見たら金色の毛や髪に、銀色が紛れている。それに神格が、、、
そっか、、、イナリも、何度も罰則を受けて、、、
他の神たちにこうやって助言してたんだ、、、私が世界を変えたあとも、、、
前から占い師みたいなことやってたし、、、
だから、、、
- どこが“影響ない”だよ、、、
- なんで私に優しくするんだよ、、、
「わっちは其方が悪いと思っておらぬ。それだけでありんす」
小さい、優しい声が聞こえた。
「ばか、、、」
- でも、、、
- 私は、、、私を、、、
「それでよい」
*
*
*
あの後、また、モフモフに洗われて、しばらく泊めてもらった。
- あんなに警戒されてたのになぁ
モフモフに囲まれて日向ぼっこ、モフモフと走り回ったり、モフモフと温泉に浸かって洗いっこ、モフモフと一緒にスヤスヤ、うん、
- モフモフしかしてないな
イナリともお茶を飲みながらいろんな話をした。ただただ私の話を聞いてくれた。あと酒を酌み交わして、くだらない話で笑い合った。
- 助けられてばかりだな
- いつかイナリが困ったことがあれば
- かならず、、、
すっかり洗われて、癒された私は、やらなければならないことに、戻ろうと思った。背負ったものは軽くはならないけど、抱えたまま走れる力をもらった。だから
- 今度は惰性じゃなくて本気で、、、
だから居心地がいいこことは、しばらくの間おさらばかな。
支度を整えてこっそり帰ろうとしたら、みんながやってきて、それすらも嬉しくて、思いっきり笑って
「イナリ!行くね!」
「いつでも帰ってこい。またあのような悪臭を放たれては敵わんのでな」
- ほんとズバズバ言うなぁ、、、
- でも優しい
「わかった!」
「それで、また一人で動くのか?」
目が少し険しくなった。
「もう大丈夫、、、だと思う、、、」
- たぶん、、、
「そちの他にも人間を助け回ってるお人好し、いや彼奴は自分のためよの。そんなやつが一柱、集団?彼奴らは本当にややこしい存在でありんす。まぁ、ここまで言えばわかるな?」
「あはは!ありがとう!」
- ヒントに文句混じってんじゃん!
それにあいつもイナリには言われたくないと思うな。ふふっ。
「思ったことを言っただけでありんす」
「わかったよ。そういうことにしとく!頼ってみるね!ほんとにありがと!またね、、、じゃない!
行ってきます!」
返事はなかった。
それでもよかった。
手を大きく振って、
でも振り返らず、
人間界に向かって走りだした。
- こうやって無我夢中で走ってれば
- きっと、、、
走って、
走って、
走って、
振り返った。
歩いて、
帰ってきた。
「ごめん、あの鳥居使っていい?」
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新版幕間・続 不確かな未来に焦がれた話
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