今日から僕は、新しい仕事に就く。
というか初めて仕事をする。
まだ生まれて間もない神だけど、僕だってあの神様のように、みんなの役に立ちたい。
だから無理を言って、シンニュウシャインとして受け入れて貰った。
そして今日がその一日目。
【猫も小判も 神界店】
神界にポツンとある人間界のような雰囲気のお店。明らかに場違いだけれど、実はいろんな神さまがやってくる。
よく遊びに来ていたここに、今日、僕はシンニュウシャインとして来たんだ。
- 頑張ろう。
震える手で、扉をゆっくりと開けた。
ギィーッカラランッ。
扉に備え付けの鈴が鳴る。
聞き慣れたその音がいつもとは違って聞こえた。
すると奥から聞き慣れた声がした。
「いらっしゃーい」
寝起きのような声も、続いて聞こえてくるバタバタと忙しない物音も、いつも通り。でも今日は、妙に緊張する。
「あぁ!いらっしゃいませじゃなくてよろしくがいいね。いや、ようこそかな〜?」
僕に気づいて挨拶に悩んでいる。その様子を見ていると少し緊張が和らいだ。
「今日からよろしくお願いします!!」
「うん!よろしく!!」
にんまりと明るい笑顔で僕が差し出した手を握りしめてくれた。
「よし!じゃあ今日からアタシのことは‘店長’って呼んでもらおうかな」
「はい!店長!」
「よろしい!それでは仕事の紹介を始めよう!っていっても前にも言ったけど、、、」
「もう一度お願いします!」
「えーっとねぇ、、、まぁ具体的な仕事内容は特に決まってないんだけど、、、どう説明しよう、、、」
「はい店長!」
「なんだい新人ちゃん」
「そもそもなんで神様なのに“仕事”をしているんですか?」
僕の質問で黙ってしまった。目を丸くしている。
- なにかやってしまったのかも。
その想いはすぐに吹き飛ばされた。大きな笑い声で。
「あははは!そうだよね。そうなんだよね。あはははっ。あー、もう面白い。ほんとねー」
大きく笑いながらどこか遠くを見ているようだ。そしてなんか置いてかれている気がする。
- 今度こそやっぱり変なこと言ったかな、、、
「あー!ごめんごめん!じゃあなんでアタシがこの店を神界でオープンしたかって話をするね!」
「はい!」
「っていうのも、ある神からの想いを引き継いだからかな。全然神らしくない、というか人になろうとした特別な存在なんだけどね」
「はい、、、」
店長は時折、寂しそうに、懐かしそうに、愛おしそうにその神様の話をする。前に詳しく聞こうとしたらはぐらかされたし、他の神様も似たような反応をする。でも今日はいつもより詳しく教えてくれた。僕は、今ならと思い切って質問した。
「店長にとって、その神様はどんな存在でしたか?」
また黙ってしまった。しかも俯いている。
- どうしよう。
今度こそやってしまったかもしれない。返事を聞くのが途端に怖くなった。でも、気になる。
「憧れ、、、かな?」
予想は外れて、すごく優しい声が聞こえてきた。ただ、その声が僕に向けられたものじゃないのはわかる。
- 僕も会ってみたいな、、、
「まぁアタシたちの仕事は、言うなればその神様の下請けだね」
「えーっと、、、」
「なんでも屋みたいなものだよ。って言ってもわからないかー。コウベがいればな〜」
またいつもの調子に戻って、僕に答えてくれた。これ以上は話を広げない方がいいんだろうな。
「あとでコウベさんに聞きます?」
「あはは。まぁ困ってる神様がいたら助けてあげたり、人間と神様の間を取り持ったりいろいろだよ」
「わかりました!」
「うん! 、、、あとでコウベに怒られないかな?」
「??」
店長がボソボソとなにか呟いている。
「、、、そうだ!コウベのことは‘副店長’って呼んで!」
「わかりました!」
「とりあえず!次は社員を紹介するね!まぁ知ってるだろうけど、改めて!まずアタシ!次は副店長のコウベ!そしてクラクとコダマ!全員もう知ってるから詳しくはいらないね!」
「はい!」
「そして人間界に本店があってね、そこでは社長の秋と千葉と那岐って人間が働いてるよ。そこも前に話したね」
「はい!」
「よしこれでいっか!」
「はい!」
ギィーッカラランッ。
誰か来たようだ。
「よし!初仕事は挨拶だよ!元気な声で!」
「いらっしゃいませ!」
振り返りながら勢いよく頭を下げた。僕の初めての’お客様‘だ、と思った。が、その考えは即座に否定された。
「貴女たちは朝からなにやってんですか?」
聞き慣れた声が聞こえたからだ。
「コウベさ、、、副店長!」
「コウベ!」
言葉にはなってないけれど大きなため息が返ってきた。
「質問に答えてください」
「新入社員研修やってた!」
「やってました!」
「聞こえてました。声が大きいので外まで漏れてましたよ」
「じゃあ説明いらないね!おはようコウベ!」
「聞こえていた上で‘訊いて’いるんです。それからおはようございます」
- 怖い。怒られる、、、
「なにを?」
店長は変わらない様子で答えてる。いつも通りだなぁ、、、でも僕は、副店長の顔が怖くて見れない。
「もういいです。私がこの子の面倒をみます。貴女はいつも通り店番やっててください」
「はーい」
「よろしくお願いします!副店長!」
「ふふ、、、こちらこそよろしくお願いします」
副店長は僕に優しい声と笑顔を向けてくれる。これもいつも通りだ。でも甘やかされてる気がするんだよなぁ。それよりも今は
- 怒られなかった!
あれ?
気づいたら副店長の視線が後ろに向いてる。振り返ると店長がガッツポーズしてる。
「作戦成功!!」
- 店長!声に出てます!
「あと貴女に一言、終わったら説教です。覚えておいてくださいね?、、、 ”店長“」
副店長がまた怖くなった。
さっきまで優しかった声がとても冷たくなってる。
「はい、、、」
さすがに店長も観念したらしい。
「やっぱりコウベが店長になればよかったのに、、、」
「私は副店長で充分ですよ」
「うへぇ」
「あはは!」
僕は思わず笑ってしまった。
- 楽しい。
いつも通り。やっぱりここは賑やかで温かいな。そしてここが僕の職場になるんだ。
- 頑張ろう!
頑張ってればいつか店長みたいに、、、
あ、そういえば
今日、店長が話してくれたこと、、、
- だったら僕も、、、
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新版神さまの下請け
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