- まだ描いてるなぁ。
- すごい。
絵を描く音だけが響いてる。
千葉はずっと無言だ。
でも思考が溢れまくってる。
なんというか、うるさい?違うか?耳障りではないんだよ。もはやなに言ってるかわかんないけど。だからこそ?
- 本当に興味深い
この類いの人間は何人か見たことはある。
でも関わるのは初めて。ただ、、、
こいつは、うん、ぼくが見た中でも上位の変人だな。
だってさ?あいつ、“冥境”見てビビってなかった?それに最後にトカと目が合って喚いてたくせに、、、
戻った途端に描くことばっか!
いやぁ、、、まじで、最高だ!コイツ。
頭ん中、地獄を描くことばっか。
狂ってる!
なかなかいなかったよ?
こんなやつ。
いいねぇ!!
面白いなぁ!!
あぁ、、、うん、、、
- 欲しいな、、、
*
「アキー!!」
( )
「今めんどくせぇって思ったやろ?じゃな?思考になっとらんでも、わかるん、ですよ?」
(鬱陶しい)
「わざとだ!おまんわざと思考に出したな!?」
「静かにしなさい!彼が集中してるんだから。邪魔になるだろう」
「そっか!そうだねぇ、、、」
慌てて振り返り千葉を見た。没頭してる。
- あぶない、、、セーフセーフ
- つーか熱中しすぎじゃね?やっぱ
- 周り見えてます?おーい!
- いやぁおもしろー
千葉に手を振ったり、声をかけてみたりして遊んでたら、
コツンっ。
ってアキにまた怒られた。
「で?どうしたんだ?」
「完全に接客モードが崩れたな!?」
「うるさい。一回奥に行くぞ。なにか用があるんだろう?」
「あ!うん、、、」
カウンターの奥、暖簾を抜けた先にある厨房スペース。確かに、ここなら千葉に話が聞こえないねぇ。
- やっぱ困った時はアキだね!
「早く話せ」
「千葉さ、“契約”してくれるかな、、、」
「さっきとえらい違いだな。早くやらないと正体がバレるとか騒いでたのはお前じゃないか?
まぁ、いよいよ危ないと思うがな」
「え?」
「地獄を見せるなんて人間にはできないぞ」
「やば!!」
「人間の当たり前を考えろ」
そうだ!あんなの見せたし、、、さっきもやらかしちゃったし、、、ってか気づきかけてなかった!?え!?どうしよう?!
「こんなに青ざめた顔をするのも珍しいな」
「前に話したじゃん!こいつが“鍵”になるかもって!」
「二回も言わんでいい」
「そう!イナリも助言してくれたから、、、だからやっぱり“契約”は結ばなきゃ、、、!」
「事情はわかる、気持ちもわかるとは言わんが、多少の理解はできる。ただな、あれはやりすぎじゃないか?なんでそこまでする?」
「私の直感が示してるんだ!」
- 何度も間違えてばかりだけど
- これは、これだけは確かな気がするの
私の目を見たアキは、一瞬黙って、
ため息をついた。
「はぁ、、、
わかった。
わかったが、“神威”を拡散したのは別だ」
「だって千葉には、、、」
「初対面の人間にとって、全開のお前はただの化け物だ」
「ひどくない?」
「その上で、慎重に行動すべきだったんだよ」
「うん、、、」
- さっきわかったって言ったのにぃ、、、
「お前が考えなしで行動するからだ」
「だってぇ〜」
あの時の“罰則”はたぶん二つは重なってたからしょうがないと思う、、、千葉が気づいたのもたぶん原因、、、だから、うん、千葉のせいやな!
「お前、人のせいにしてるな?」
「アキって人間なのに心読めたりする?」
「お前がわかりやすいだけだ」
「そっか。んふふ」
「気持ち悪い」
「ねぇ、言葉が痛い。怒ってる?」
「当たり前だ。自分を大事にしろって何度言えばいい?さっきも俺の制止を聞かずに“契約”を持ちかけて失敗しただろ」
「あはは」
二回目の“罰則”は痛かったなぁ〜。あれ絶対三つ以上だぞ。重かった、、、うん、、、
「よく耐えたと思う」
「床に転がるゴミみたいに悶えていたな」
「痛い!いたぁい!先生!榊秋《さかきあき》さんがチクチク言葉を使ってきます!」
「どこでそんな言葉拾ってきた?」
「最近読んだ漫画」
「捨てるか」
「ひどくない!?!?」
「妥当だ」
「いやだって、あれ成功したと思わない!?」
ちゃんと“取り引き”って明示したし、“対価”も提示したし、、、
- あ!
- 千葉に“罰則“の説明してないや。
- でもさぁ〜
「あいつ『見てみたい』とも『わかった』とも言ったんだよ?」
「『見てみたい』は言葉に出てなかったぞ」
「そこはどうでもいいでしょう?」
「そんなんだからさっきみたいに正体がバレかけんだろ」
- そうだ!!
「早く“契約”しないとバレちゃう!」
「さっきも言ったが本当にいいのか?」
「でも、だって、、、!!!」
「お前の気持ちは?」
- 私の気持ち、、、
「千葉と普通に関わりたい。たぶん自分の正体とか気にせずに、普通に話してみたい」
「だけじゃないだろ」
「本当に心読んでる?」
「彼を見るお前の目が語ってたぞ」
「そっか、、、」
「だからって肯定はしないがな」
「うん」
さっきの説教よりも、今の一言の方が痛かった。っていうか私、トカみたいだったかな、、、
でも、だって、、、どうしよう。どっちが正しいのかな。
「あのな、人間っていうのは案外と適当なんだ」
「え?」
アキの声が優しい。
「わかりやすくいうとだな、素性の知れない相手でも一緒に笑い合えたりするもんなんだよ」
「そうなの?」
「いろんな酒場を渡り歩いてるお前ならわかるんじゃないか?」
「あ」
確かに、、、どの居酒屋いっても最後はみんなベロンベロン。
名前も知らないのに笑い合ってたなぁ。
- そっか
- そうだね
「ありがとうアキ!」
「決まったみたいだな」
「うん!“契約の内容”を考え直そうかな」
「それがいい」
「でもなんでここまで?」
「俺が忠告しなかったらお前は十中八九、勢いで契約を交わす。それで後悔して俺に愚痴る。それがごめんなんだよ」
「いつにも増して棘があるね」
- だけど優しい。イナリみたいだな。
「とりあえずなにが決まっている?」
「鬼海は私が特別な景色をあげれば“恩恵”になるって。あとは厄介なのに憑かれてるから、もともと恩恵で考えてた保護に加える形にして、私の契約で弾く!そういう感じかな?」
「“対価”は?」
「私を神だと気付けないようにする」
「具体的には?」
「気づきそうになるとピリって痛むぐらいかな」
「人間換算だと?」
「タライが当たるくらい」
「はぁ、、、、、、」
長いため息。そんなひどい??
「わかった、、、俺に任せろ」
「あきぃぃぃ!!ありがとうぅぅぅ!」
「鬱陶しい。離れろ」
「はい」
「契約内容を整理するぞ」
「うん!」
*
「まず痛みを軽減しろ。お前が受けてる罰則を基準に考えるな」
「はぁい」
「あと特別な景色を見せるってのは恩恵として適用されるのか?」
「えーっと、、、」
*
「やっぱり私は千葉に人間だと信じて欲しい」
「それなら疑ったら“不履行”か?それはお前が求める普通の関係にはならないぞ」
「だよね、、、」
「だからそこは譲歩しろ他にもな、、、」
*
*
「戻るぞ。終わった後に誰もいなかったら、余計に怪しまれる」
「たしかに!どこまで終わったかなぁ〜」
「ようやく落ち着いたな」
「アキが任せろって言ったから!」
「はぁ、、、」( めんどくさい )
- 今のは気にしないであげよう!
「早く早く!」
「ったくもう、、、」
暖簾を抜けて、カウンター。そこから千葉の隣に座る。千葉の横顔は真剣そのもの。目が少し血走ってる。手の動きもすごい速い。無我夢中ってこのことだね。
(あの光、、、魂か?今まで見たどんな光よりも綺麗だった。銀だけじゃない。太陽みたいにいろんな光が混ざってるはずだ。でも赤は少なかった。でもないわけじゃない!しっかりと思い出せ!!)
「うわぁ、、、思考ダダ漏れ、、、」
「ナギ、邪魔になるからこっち来なさい」
「はぁい」
たしかにね。ちゃんと完成したものが見たい。だからちゃんと見守ろう。
なんて思いながら、ずっと見てた。
全く飽きなかった。
- いいなぁ。
(おわった)
- お!いいかな?見ていいかな?
アキを見たら、眉間を険しくさせて
(ステイ!)
って思考で返事が聞こえた。
- みたい〜
(やらかした)
今度は千葉から思考が聞こえた。
- ん?なにが?
- まぁいいや!いいよね?
- うん!
「えっと、、、」
「終わった!?見ていい?」
アキも続いて
「あの、良ければ私も見ていいですかね?」
- アキも気になってんじゃん!!
(うるさい)
- 怒られた、、、
- っていうかダメ?
- 見たらダメ?
待ちきれずに千葉の思考を深く覗くと温かい感情と一緒に、
(懐かしい)
(見てほしい)
と聞こえた。見えた。そのすぐあと
「いいですよ」
「やった!!」
「ありがとうございます」
- よっしゃ!!
- さっそくーー!!
飛びつくように、千葉が最後に描いてた一枚を手に取った。そして、止まった。思考が言葉にならなかった。
なんていうか、なんて言おうかわからなくて、とにかく、なんか、すごい、すっっげぇ!だけじゃない!なんだろう!なんだろう!?なんかわからないけど、でも!それより!!なにより!めちゃくちゃに、、、
- 綺麗
たった一言を思考として出力するのが、こんなに大変だったか。そんな些末な疑問はすぐかき消された。それからが止まらなかったゆえに。
- ボクの記憶と全然違う!!おもしろ!!
白炎に宿る蒼い神威が、絵だと怪しい。亡者たちの表情は、私が意識して見てない部分まで鮮明に描かれていて、冥境は人間にはこんなにおぞましく見えるのか!すげぇ、、、
魅せられた。
そして、さまざまな感情まで溢れ出して、、、
気づかされた。
- 救い、だったんだね。
- いやこの絵が救いなのかな。
あのあと何度か見た地獄。神の自己満足としか感じなかった。けど、まぁ、うん、、、
今でもそれは変わらない。
でも、、、
- それだけじゃなかった、の、かな?
そういう風に思えてくる。
考えさせられる。
ただ、見るのが止められない。
次は亡者が焼かれてく様子を描いた絵。
しっかり描けてるのは前提なのかもしれない。
だからかな
苦しみ、悶えながら、白炎に焼かれる亡者
- 消えていった彼らが、絵として甦った
- 意図してたわけじゃないだろうけど
- 千葉のこの絵は、やっぱり、うん
- “救い”だ
自分の目がギョロギョロ、ジロジロ動いてるのがわかる。さっき前提とは思ったけど、やっぱり、どれもこれも綺麗で面白い。楽しい。
妖怪たちの住処はおどろおどろしい。
けど生活感がある。
- ほんとあいつ、
- 淡々と観察してやがったな?
ここには恐れはない。冥境の部分と違う。
個の存在が群れになっている、日常を送っているのを、そのまま、描いている。だから、気づくことができた。
- そうか
- あいつらにとって地獄は、、、
- やっぱり間違ってたのかな、、、
- あいつらには悪いことした
- それは違いない
- でも
それでもどうしようもない。
ないんだよね。
だから抱えるしかない。
「ふぅ、、、 」
こうなってしまうのもこの絵の魅力なんだと思う。絵のいろんな箇所に目移りしたり、近づいたり、遠ざけたり、考えたり、気づかされたり、それで動きが止まったり、
- いい時間を過ごしているな、、、
まだまだ絵はある。何枚描いてんだよ。最高か?
- もっとよく見よう
冥境が大きく描かれた縦の一枚絵。
上に広がる夜とは異なる暗闇、上から下に燃え盛る紫の炎。揺れる赤。そこから湧く浄化された霊力。
- アイツ冥境にビビってたよな?
- 見ないようにしてたよな?
- なんでここまで描けてんだよ、、、
- 記憶には残ってたのか?
- だからって描くか?
- ってかこれ、、、
- 人によっては呑まれるんじゃないか?
- アイツは底がしれないなぁ
- でもそれとこれとはべつだ
- この絵はあとで預かろう
全部見たかな。それに何度も見返した。素晴らしかった。本当に見せてよかった。
どの絵も良い。優劣なんか決められない。
いろんな体験をさせてくれた。だからかな。
「あぁ」
- やっぱり
- こいつの絵を見てると、、、
- 改めて自分を省みることができる
- 気がする
- その上で
- 楽しい
- 面白い
- もっと見たい
- だから
- うん
- 千葉と一緒にいろんな景色を見てみたい
「なぁ千葉、私の仕事を手伝うならこういう景色をいくらでも見られるよ」
「やる!!!!」
鬼海に『千葉に言ったら?』って言われてたことがすんなりと出てきた。
千葉も即答してくれた。
これから千葉はどんな絵を描くんだろう。どんな感情を教えてくれるんだろう。ああ、楽しみで楽しみでたまらまいよ。やっぱり、本当に、
- 千葉と、会えて良かった
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新版第五話・下 会えて良かった
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