新版 / 第一章

第五話・下 会えて良かった

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- まだ描いてるなぁ。

- すごい。

絵を描く音だけが響いてる。

千葉はずっと無言だ。

でも思考が溢れまくってる。

なんというか、うるさい?違うか?耳障りではないんだよ。もはやなに言ってるかわかんないけど。だからこそ?

- 本当に興味深い

この類いの人間は何人か見たことはある。

でも関わるのは初めて。ただ、、、

こいつは、うん、ぼくが見た中でも上位の変人だな。

だってさ?あいつ、“冥境”見てビビってなかった?それに最後にトカと目が合って喚いてたくせに、、、

戻った途端に描くことばっか!

いやぁ、、、まじで、最高だ!コイツ。

頭ん中、地獄を描くことばっか。

狂ってる!

なかなかいなかったよ?

こんなやつ。

いいねぇ!!

面白いなぁ!!

あぁ、、、うん、、、

- 欲しいな、、、

*

「アキー!!」

( )

「今めんどくせぇって思ったやろ?じゃな?思考になっとらんでも、わかるん、ですよ?」

(鬱陶しい)

「わざとだ!おまんわざと思考に出したな!?」

「静かにしなさい!彼が集中してるんだから。邪魔になるだろう」

「そっか!そうだねぇ、、、」

慌てて振り返り千葉を見た。没頭してる。

- あぶない、、、セーフセーフ

- つーか熱中しすぎじゃね?やっぱ

- 周り見えてます?おーい!

- いやぁおもしろー

千葉に手を振ったり、声をかけてみたりして遊んでたら、

コツンっ。

ってアキにまた怒られた。

「で?どうしたんだ?」

「完全に接客モードが崩れたな!?」

「うるさい。一回奥に行くぞ。なにか用があるんだろう?」

「あ!うん、、、」

カウンターの奥、暖簾を抜けた先にある厨房スペース。確かに、ここなら千葉に話が聞こえないねぇ。

- やっぱ困った時はアキだね!

「早く話せ」

「千葉さ、“契約”してくれるかな、、、」

「さっきとえらい違いだな。早くやらないと正体がバレるとか騒いでたのはお前じゃないか?

まぁ、いよいよ危ないと思うがな」

「え?」

「地獄を見せるなんて人間にはできないぞ」

「やば!!」

「人間の当たり前を考えろ」

そうだ!あんなの見せたし、、、さっきもやらかしちゃったし、、、ってか気づきかけてなかった!?え!?どうしよう?!

「こんなに青ざめた顔をするのも珍しいな」

「前に話したじゃん!こいつが“鍵”になるかもって!」

「二回も言わんでいい」

「そう!イナリも助言してくれたから、、、だからやっぱり“契約”は結ばなきゃ、、、!」

「事情はわかる、気持ちもわかるとは言わんが、多少の理解はできる。ただな、あれはやりすぎじゃないか?なんでそこまでする?」

「私の直感が示してるんだ!」

- 何度も間違えてばかりだけど

- これは、これだけは確かな気がするの

私の目を見たアキは、一瞬黙って、

ため息をついた。

「はぁ、、、

わかった。

わかったが、“神威”を拡散したのは別だ」

「だって千葉には、、、」

「初対面の人間にとって、全開のお前はただの化け物だ」

「ひどくない?」

「その上で、慎重に行動すべきだったんだよ」

「うん、、、」

- さっきわかったって言ったのにぃ、、、

「お前が考えなしで行動するからだ」

「だってぇ〜」

あの時の“罰則”はたぶん二つは重なってたからしょうがないと思う、、、千葉が気づいたのもたぶん原因、、、だから、うん、千葉のせいやな!

「お前、人のせいにしてるな?」

「アキって人間なのに心読めたりする?」

「お前がわかりやすいだけだ」

「そっか。んふふ」

「気持ち悪い」

「ねぇ、言葉が痛い。怒ってる?」

「当たり前だ。自分を大事にしろって何度言えばいい?さっきも俺の制止を聞かずに“契約”を持ちかけて失敗しただろ」

「あはは」

二回目の“罰則”は痛かったなぁ〜。あれ絶対三つ以上だぞ。重かった、、、うん、、、

「よく耐えたと思う」

「床に転がるゴミみたいに悶えていたな」

「痛い!いたぁい!先生!榊秋《さかきあき》さんがチクチク言葉を使ってきます!」

「どこでそんな言葉拾ってきた?」

「最近読んだ漫画」

「捨てるか」

「ひどくない!?!?」

「妥当だ」

「いやだって、あれ成功したと思わない!?」

ちゃんと“取り引き”って明示したし、“対価”も提示したし、、、

- あ!

- 千葉に“罰則“の説明してないや。

- でもさぁ〜

「あいつ『見てみたい』とも『わかった』とも言ったんだよ?」

「『見てみたい』は言葉に出てなかったぞ」

「そこはどうでもいいでしょう?」

「そんなんだからさっきみたいに正体がバレかけんだろ」

- そうだ!!

「早く“契約”しないとバレちゃう!」

「さっきも言ったが本当にいいのか?」

「でも、だって、、、!!!」

「お前の気持ちは?」

- 私の気持ち、、、

「千葉と普通に関わりたい。たぶん自分の正体とか気にせずに、普通に話してみたい」

「だけじゃないだろ」

「本当に心読んでる?」

「彼を見るお前の目が語ってたぞ」

「そっか、、、」

「だからって肯定はしないがな」

「うん」

さっきの説教よりも、今の一言の方が痛かった。っていうか私、トカみたいだったかな、、、

でも、だって、、、どうしよう。どっちが正しいのかな。

「あのな、人間っていうのは案外と適当なんだ」

「え?」

アキの声が優しい。

「わかりやすくいうとだな、素性の知れない相手でも一緒に笑い合えたりするもんなんだよ」

「そうなの?」

「いろんな酒場を渡り歩いてるお前ならわかるんじゃないか?」

「あ」

確かに、、、どの居酒屋いっても最後はみんなベロンベロン。

名前も知らないのに笑い合ってたなぁ。

- そっか

- そうだね

「ありがとうアキ!」

「決まったみたいだな」

「うん!“契約の内容”を考え直そうかな」

「それがいい」

「でもなんでここまで?」

「俺が忠告しなかったらお前は十中八九、勢いで契約を交わす。それで後悔して俺に愚痴る。それがごめんなんだよ」

「いつにも増して棘があるね」

- だけど優しい。イナリみたいだな。

「とりあえずなにが決まっている?」

「鬼海は私が特別な景色をあげれば“恩恵”になるって。あとは厄介なのに憑かれてるから、もともと恩恵で考えてた保護に加える形にして、私の契約で弾く!そういう感じかな?」

「“対価”は?」

「私を神だと気付けないようにする」

「具体的には?」

「気づきそうになるとピリって痛むぐらいかな」

「人間換算だと?」

「タライが当たるくらい」

「はぁ、、、、、、」

長いため息。そんなひどい??

「わかった、、、俺に任せろ」

「あきぃぃぃ!!ありがとうぅぅぅ!」

「鬱陶しい。離れろ」

「はい」

「契約内容を整理するぞ」

「うん!」

*

「まず痛みを軽減しろ。お前が受けてる罰則を基準に考えるな」

「はぁい」

「あと特別な景色を見せるってのは恩恵として適用されるのか?」

「えーっと、、、」

*

「やっぱり私は千葉に人間だと信じて欲しい」

「それなら疑ったら“不履行”か?それはお前が求める普通の関係にはならないぞ」

「だよね、、、」

「だからそこは譲歩しろ他にもな、、、」

*

*

「戻るぞ。終わった後に誰もいなかったら、余計に怪しまれる」

「たしかに!どこまで終わったかなぁ〜」

「ようやく落ち着いたな」

「アキが任せろって言ったから!」

「はぁ、、、」( めんどくさい )

- 今のは気にしないであげよう!

「早く早く!」

「ったくもう、、、」

暖簾を抜けて、カウンター。そこから千葉の隣に座る。千葉の横顔は真剣そのもの。目が少し血走ってる。手の動きもすごい速い。無我夢中ってこのことだね。

(あの光、、、魂か?今まで見たどんな光よりも綺麗だった。銀だけじゃない。太陽みたいにいろんな光が混ざってるはずだ。でも赤は少なかった。でもないわけじゃない!しっかりと思い出せ!!)

「うわぁ、、、思考ダダ漏れ、、、」

「ナギ、邪魔になるからこっち来なさい」

「はぁい」

たしかにね。ちゃんと完成したものが見たい。だからちゃんと見守ろう。

なんて思いながら、ずっと見てた。

全く飽きなかった。

- いいなぁ。

(おわった)

- お!いいかな?見ていいかな?

アキを見たら、眉間を険しくさせて

(ステイ!)

って思考で返事が聞こえた。

- みたい〜

(やらかした)

今度は千葉から思考が聞こえた。

- ん?なにが?

- まぁいいや!いいよね?

- うん!

「えっと、、、」

「終わった!?見ていい?」

アキも続いて

「あの、良ければ私も見ていいですかね?」

- アキも気になってんじゃん!!

(うるさい)

- 怒られた、、、

- っていうかダメ?

- 見たらダメ?

待ちきれずに千葉の思考を深く覗くと温かい感情と一緒に、

(懐かしい)

(見てほしい)

と聞こえた。見えた。そのすぐあと

「いいですよ」

「やった!!」

「ありがとうございます」

- よっしゃ!!

- さっそくーー!!

飛びつくように、千葉が最後に描いてた一枚を手に取った。そして、止まった。思考が言葉にならなかった。

なんていうか、なんて言おうかわからなくて、とにかく、なんか、すごい、すっっげぇ!だけじゃない!なんだろう!なんだろう!?なんかわからないけど、でも!それより!!なにより!めちゃくちゃに、、、

- 綺麗

たった一言を思考として出力するのが、こんなに大変だったか。そんな些末な疑問はすぐかき消された。それからが止まらなかったゆえに。

- ボクの記憶と全然違う!!おもしろ!!

白炎に宿る蒼い神威が、絵だと怪しい。亡者たちの表情は、私が意識して見てない部分まで鮮明に描かれていて、冥境は人間にはこんなにおぞましく見えるのか!すげぇ、、、

魅せられた。

そして、さまざまな感情まで溢れ出して、、、

気づかされた。

- 救い、だったんだね。

- いやこの絵が救いなのかな。

あのあと何度か見た地獄。神の自己満足としか感じなかった。けど、まぁ、うん、、、

今でもそれは変わらない。

でも、、、

- それだけじゃなかった、の、かな?

そういう風に思えてくる。

考えさせられる。

ただ、見るのが止められない。

次は亡者が焼かれてく様子を描いた絵。

しっかり描けてるのは前提なのかもしれない。

だからかな

苦しみ、悶えながら、白炎に焼かれる亡者

- 消えていった彼らが、絵として甦った

- 意図してたわけじゃないだろうけど

- 千葉のこの絵は、やっぱり、うん

- “救い”だ

自分の目がギョロギョロ、ジロジロ動いてるのがわかる。さっき前提とは思ったけど、やっぱり、どれもこれも綺麗で面白い。楽しい。

妖怪たちの住処はおどろおどろしい。

けど生活感がある。

- ほんとあいつ、

- 淡々と観察してやがったな?

ここには恐れはない。冥境の部分と違う。

個の存在が群れになっている、日常を送っているのを、そのまま、描いている。だから、気づくことができた。

- そうか

- あいつらにとって地獄は、、、

- やっぱり間違ってたのかな、、、

- あいつらには悪いことした

- それは違いない

- でも

それでもどうしようもない。

ないんだよね。

だから抱えるしかない。

「ふぅ、、、 」

こうなってしまうのもこの絵の魅力なんだと思う。絵のいろんな箇所に目移りしたり、近づいたり、遠ざけたり、考えたり、気づかされたり、それで動きが止まったり、

- いい時間を過ごしているな、、、

まだまだ絵はある。何枚描いてんだよ。最高か?

- もっとよく見よう

冥境が大きく描かれた縦の一枚絵。

上に広がる夜とは異なる暗闇、上から下に燃え盛る紫の炎。揺れる赤。そこから湧く浄化された霊力。

- アイツ冥境にビビってたよな?

- 見ないようにしてたよな?

- なんでここまで描けてんだよ、、、

- 記憶には残ってたのか?

- だからって描くか?

- ってかこれ、、、

- 人によっては呑まれるんじゃないか?

- アイツは底がしれないなぁ

- でもそれとこれとはべつだ

- この絵はあとで預かろう

全部見たかな。それに何度も見返した。素晴らしかった。本当に見せてよかった。

どの絵も良い。優劣なんか決められない。

いろんな体験をさせてくれた。だからかな。

「あぁ」

- やっぱり

- こいつの絵を見てると、、、

- 改めて自分を省みることができる

- 気がする

- その上で

- 楽しい

- 面白い

- もっと見たい

- だから

- うん

- 千葉と一緒にいろんな景色を見てみたい

「なぁ千葉、私の仕事を手伝うならこういう景色をいくらでも見られるよ」

「やる!!!!」

鬼海に『千葉に言ったら?』って言われてたことがすんなりと出てきた。

千葉も即答してくれた。

これから千葉はどんな絵を描くんだろう。どんな感情を教えてくれるんだろう。ああ、楽しみで楽しみでたまらまいよ。やっぱり、本当に、

- 千葉と、会えて良かった

 

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