初期版 / さまざまな神さま

悪辣な地獄体験

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「遅かったわねぇ、、待ちくたびれたわぁ」

 

《《声として聞こえた》》。

 

少し高い、綺麗な、でもこびりつくような粘度のある声が威圧感と共に駆け巡る。

 

今回はなにもしてない。

さっきまでは、前と同様に言葉が認識できる程度だった。それがこの部屋の扉が開かれて邂逅した時、一段上の存在感を放っている。

 

もし今、眼鏡を外したら、、

 

「千葉チバ! やめとけ!」

 

「お、おう」

 

ナギが叱られなければ眼鏡を外していた。

というかこれのおかげで力を抑えてくれている状態なんだよな。それでこれか。

あんまり意味ない? そうじゃないな。

たぶん、、、

 

「あらぁ〜先に私のことを描いてくれてもよかったのに?ねぇ〜?」

 

「こんな悪趣味なことしといて?」

 

ナギが怒鳴り声をあげた。

先に中へ入っていたナギは、声がする前から険しい顔で《《俺には見えない》》部屋の奥をずっと睨んでいた。

 

めちゃくちゃ怒ってる、、、

ってかいつの間にか鼻に詰め込んでたティッシュが消えてる。あれは嘘だったんだな。たぶん初めてナギに嘘をつかれた気がする。

 

「暇だったから、ねぇ? せっかくだからこの部屋を《《地獄に近づけてみたの》》! ほぉら貴方も早くこっちへおいでなさぁい」

 

ドロドロに甘い声で、脳に直接囁かれた。

 

開かれた扉の奥。

まるで認識がバグったように中が見えない。

 

どうなっているんだ、、

 

好奇心が込み上げてくる。

 

俺は、迷うことなく《《入ってしまった》》。

 

自然に。無意識に。手を引かれたみたいに。

 

「うぐっっ!!!」

 

一歩、中に足を踏み入れた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。

 

熱い。空気があまりにも熱い。重い。部屋全体に嫌な感じが充満している。どんどん呼吸が苦しくなる。今すぐ命を断ちたい。でも無理な気がする。どうせまた蘇る。ここはそんな場所だ。

 

充分すぎるほど警戒していたはずなのに、好奇心に突き動かされた。

 

俺はうずくまって、全身を震わせていた。

 

するとナギが指を鳴らす。

一気に空気が軽くなった。

 

未だに嫌な感じは充満している。空気も少し暑くて重い。それでもだいぶマシになった。

 

「トカ!アンタやりすぎ!!!」

 

ナギの語気はさっきよりも強い。

 

聖堂での時は、まだ加減してたんだな。

本気でキレてる。

 

「《《まずは》》、《《体験してみた方がいいでしょう》》?」

 

「アンタのそうっいうところ!大っっ嫌い! !それにお前、、」

 

見えなくてもわかる。あの神さまが悪辣さに満ちたいやらしい笑みを浮かべてるはずだ。

たぶんこれが本性か、、

 

ナギから過去を聞いて認識を改めていた。

でも予想以上に恐ろしい危ない存在だった。

 

「千葉チバ 」

 

ナギがこちらに向き直って、肩に手を置いた。

 

呼吸が落ち着いてきた。

 

「助かった」

 

ナギは振り返り、また部屋の奥を睨み直す。

 

俺は部屋の全体像を確認した。

 

今度は見える。

余裕ができたおかげだ。

冷静に周囲を観察する。

でもすぐに目を逸らしたくなった。

 

《《真っ赤》》。

 

学校の教室くらいの広さだが、置かれてあるものはまるっきり違う。あまり見たくない。

 

拷問器具を連想されるそれらは、今までことのない形状の刃物や鉄塊だった。使い方を想像するのも嫌だ。

 

そして中央、聖堂で見えた岩の背面。

 

表の印象とは正反対だ。

 

神聖さは感じる。でもこれは《《異質》》。

 

岩の表面は、鉱石のようなものが露出していた。それは不気味な紫の輝きを放ち、気味の悪い凹凸がところどころにある。

触るまでもなく堅いとわかるそれが、自然についたとは思えない凹み方をしていた。

 

これは明らかに良くないものだ。

 

そして、部屋全体が暗い。

しっかり見えてはいる。でも暗く感じる。

 

絶対ダメなやつだ、、、

 

「この子、よく見てるわねぇ。期待できるわぁ」

 

《《美味しそう》》。

そう思わせる視線が刺さる。

 

わかった。

この眼鏡が不良品じゃない。これで抑えられないほどに力が強いんだ、、、

 

「この部屋のおかげよぉ。」

 

どういうことだ?

 

「ここに《《座》》を下ろして、百年は経ったかしら?

いい感じに《《染みてきた》》のよねぇ。この部屋には、特別な子たちのためにたっぷり《《注いであげた》》から、、ふふ。」

 

「トカお前、、、」

 

「千葉チバくん? だったかしら。ここはいい場所でしょう?」

 

悪気のなさそうに無邪気な口調で、邪気に溢れた声が響き渡る。

 

脳が警報を鳴らす。でもこの声に何故か惹かれる自分がいる。ナギだって救われてる子もいるって言ってたし、俺に取り憑いてるヤツも祓ってくれるって話だし、、

 

ガンッッッ!

 

何かが砕かれる音が響いた。

 

ナギが、本尊のすぐ横の壁に蹴りをいれていた。コンクリートでできていたであろう壁は砕けて鉄筋が見えている。

 

「いい加減にしろ!!」

 

「らしくないわねぇソラナギ」

 

明らかにナギを怒らせて楽しんでいる。

俺を使って。

 

ナギも散々人を振り回している。主に俺。

だけどアイツは限度を見据えて、それか別の狙いがあって、人を揶揄っている。あとは天然。

タチが悪いのは確かだが、人道的ではある。

 

この神さまは、度を超えてる。というか人間の尺度を弁える気がない。イカれてる。

 

「失礼ねぇ、、」

 

「あっぐ!!がぁあ!!!」

 

また空気が熱くなった。重くなった。

全身が溶岩で焼き潰されてるみたいだ。

本格的に死ぬ。今度こそやばい。

 

「トカ!これ以上、詩生うたきに手を出すなら《《砕くよ》》」

 

収まった。

 

生きてる。

 

呼吸ができる。空気も変じゃない。

部屋も赤くも暗くもなくなった。

 

ちゃんと生きてる。

 

現実に起こったことだが、現実に戻ったって実感がある。

 

助かった。

 

 

 

 

って、ん?

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